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最高裁判所第二小法廷 昭和40年(行ツ)112号 判決

上告人 国 外一名

訴訟代理人 板井俊雄 外一名

被上告人 藤間正雄

主文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人本間五六の上告理由(第一一二号事件)について。

原審は、被上告人の上告人茅野一枝に対する本件農地の所有権移転登記抹消登記手続を求める訴について、同上告人が売渡しを受けた本件農地の買収処分は当然無効であるから、同上告人はその占有の始め過失がなかつたとはいえないという理由で、時効中断に関する被上告人の再抗弁の成否を判断することなしに、右上告人の取得時効の抗弁を排斥し、被上告人の請求を認容したこと判文上明らかである。

しかし、買収農地の売渡しを受けてこれを耕作している者は、当該売渡処分が当然無効である場合においても、特段の事情のない限り、その占有の始め善意、無過失であつたと認めるのが相当である(昭和四一年九月三〇日第二小法廷判決、民集二〇巻七号一五三二頁参照)。それ故原審の前記判断は、民法一六二条二項の解釈、適用を誤り、理由不備の違法をおかしたものであるとする論旨は、理由があり、原判決中上告人茅野一枝敗訴の部分を破棄し、右特段の事情の有無及び被上告人の再抗弁の成否につきさらに審理を尽させるため、前記部分に関する本件を原裁判所に差し戻すこととする。

上告代理人板井俊雄、同室岡克忠名義、同真柄信義名義の上告理由(第一一一号事件)について。

被上告人の上告人国に対する本件農地買収処分無効確認訴訟について、第一審判決は、本案の判断をすることなく、訴の利益がないとして、その請求を棄却したが、原審は、買収令書の交付がなかつたことは同上告人の認めて争わないところであるから本件買収処分は無効であるという理由で、第一審判決を取り消し、被上告人の請求を認容する旨の判決を下したこと記録上明らかである。

ところが民訴法三八八条は、事実審理に関する審級の利益を保障した規定であるから、第一審判決は、その主文が請求棄却となつていても、本案について判断をしていない以上、ここにいう「訴ヲ不適法トシテ却下シタル」判決にあたるというべきである。しかるに、原審が、前叙のごとく、第一審判決を取り消しながら、事件を第一審裁判所に差し戻すことなく、その本案について判決をしたことは、同法条に違背するものであつて、論旨は、理由があり、原判決中上告人国敗訴の部分を破棄すべきものとする。

そして、自作農創設特別措置法によつて買収農地の売渡しを受けた者が時効によつて当該農地の所有権を取得したときは、右農地の被買収者は、その買収処分の無効確認を求める訴の利益を有しないこと、昭和三九年一〇月二〇日第三小法廷判決(民集一八巻八号一七四〇頁参照)の示すところである。したがつて、原審としては、差し戻しにかかる前記上告人茅野一枝に対する訴の再審理の結果如何によつては、上告人国に対する訴につき、本案の判断をする必要がなくなり、第一審判決を支持すべき場合もあり得るので、民訴法三九六条によつて当審に準用される同法三八八条の規定にかかわらず、前記部分に関する本件は、原裁判所に差し戻すのが相当である。

よつて、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判官 奥野健一 城戸芳彦 石田和外)

上告代理人の上告理由〈省略〉

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